誰?
「大丈夫かい?痛いところはないかい?何かして欲しい事は?」
そんな声で、僕は、目を覚ました。
声のする方向を見ると、おばあさんが、僕をじっと見ていた。
『あなたは誰?』
おばあさんの向こうには、車の正面に突き刺さった、僕のミニバイクが、エンジンの音をご機嫌に奏でていた。(穴あきマフラー・・・)

ん?俺どうしたんだ・・・まさか、事故った?
イヤ、この俺が事故などするわけがない!
車ならばともかく、きをつけて乗っていたバイクで事故などするはずがない。
(どこまでも、自信過剰なアホな自分に、後で気づく)

しかし、起きあがろうとしても全く体が動かない。
夢・・・夢にしては、現実過ぎる。
「あんた、事故したんだよ。何かして欲しい事は?」
再び、おばあさんに声をかけられて、現実を理解する。

頭の上方向には橋の欄干、右手方向には相手の車と刺さったバイク、左手方向に人の山、足下にも人・・・。
ホントに事故したんだ!やっちまったか。
(帰宅途中、橋の真ん中で、車に突っ込んでしまったらしい)

そして、無性に頭が重い感じがした。
凄く頭が重いんだよ。持っていてくれないかな?そう、おばあさんにお願いをした。
「わかったよ、下から支えてあげるね」
(↑この行為、後から考えれば、凄く危険な行為である)
人の手が触れた事で、安心したのか周りの声が耳に入ってくる。

「なんだ!由則じゃないか、どうしたんだ、事故ったのか」
その声は、会社の先輩の坪井さんと鈴木さんだった。
やっちゃったみたいです。
「喋れるから大したこと無いな」
はい、そう思います・・・。
遠くの方から、救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
あ、バイクのエンジン切ってください。(変な余裕がある)
(ここで、記憶がなくなる。意識がなくなったのかもしれない)

次に意識が戻ったのは、救急車の中である。
救急隊員の横に、坪井さんが居た。心配して付き添ってきてくれたのである。
初めての救急車に、何となくワクワク感を覚える。(馬鹿だよね)
そうだ、自分の名前と住所と電話番号伝えなければ!(意外と冷静?)
ここから、馬鹿の一つ覚えみたいに、名前、住所、電話番号を言い続ける。
「わかったから、静かにしていて良いよ、少し休みなさい」
救急隊員の言葉に反し、三つを繰り返す・・・。
自分の中に、しゃべる事を止めたら寝てしまう。
寝てしまえば、このまま目を開ける事はないんじゃないか?
そんな意識があったのを記憶している。
しかし、次に記憶があるのは、病院の救急入り口である。

な・なに・・・聖隷三方原病院?そんな看板が目に飛び込んでくる。
三方原聖隷といえば、浜松の北の外れである。
事故した場所は、僕の家からバイクで2、3分の浜松の南の外れ。
ナンで、こんな遠くまで運ばれてきたんだ!もっと近くにも病院があるはずなのに。

(僕の事故したのは、1984/09/04.PM7:03頃
 この日の、救急指定は、運悪く北の外れの三方原聖隷だったのだ
 しかし、救急隊員は、直ぐに僕の首の折れているのが判ったらしく、急を要する
 怪我だが、ココの病院が、その受け入れに適していると判断したらしい)
これが、良かったのか?悪かったのか?永久に謎に成るであろう。

自分の首が折れていると、気が付くのは、かなり、後になる。(鈍感のお馬鹿さん)

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側で、僕に声をかけてくれたおばあさんは、橋のたもとの家のおばあさんで、事故の音と共に駆けつけてくれたらしい。声をかけてくれて、ありがとう。
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